Thursday, February 11, 2021

春からギリシャ語をはじめる人へ

 春ですね。新しいことをはじめるにはよい季節ですし、ギリシャ語をはじめるのはよいアイデアだと思います。ギリシャ語ができれば、文学、歴史学、哲学、新約聖書文献学など、多くの分野で勉強・研究を進めることができるようになります。私は学部後期課程・大学院修士課程とギリシャ語史を中心に調べていましたが、人生の仕様上、研究は無期限停止状態となっています。金がない、いつまでも肩書が得られない、ほかにもやりたいものがある、などなど、研究が無期限停止状態になった原因をあげればキリがありません。端的にいえば "職業研究者" としての才能がない、大学をめぐる現在の状況と未来の予測から絶えず “計算” をしてしまう私の経済合理性が私の精神に目隠しをさせて熱い研究生活を続けることを許容しなかった、ということなのですが、それでもなお、とりあえずこの時間をなにに溶かしていたかというと、「ギリシャ語史を調べていた」わけで、得たものがないわけではありません。とりあえずこれを周囲の人たち、とりわけ後進の学生の参考にしてもらうことで、私の代わりにギリシャ語研究を志してくれる人がひとりでも登場してもらえればよいかなと思ったりします。そのようなわけで、以下では入門から究極完全態になるためのロードマップをしめしてみようかと思います。



学校文法を身につける

 まずは界隈でスタンダードとされているものを身につけなければならないので、とりあえず古典期アッティカ文法の語形変化と最低限の統語法を把握しましょう。教科書はいろいろ出ています。伝統的なものだと田中・松平『ギリシア語入門』(岩波書店)、新しいものだと堀川『しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語』(ベレ出版) など。練習問題の分量や、語形変化表の体裁など、好みに応じて選べばよいと思います。

 統語法については、 Smyth の Greek Grammar を座右においておくべきですが、一応いっておくと、古い日本語の本で田中・松平『ギリシア語文法』(岩波書店) という本もあります。私はそれほど使ったことがないですが、チェシュコ『古典ギリシア語文典』などもあります。最後のものは歴史文法的なコメントもあって、最初の教科書として使うには重すぎますが、復習時に読むと学びがあると思います。



通史を読む

 学校文法を身につけたら、さっそく学校文法を相対化してめちゃくちゃにしたくなりますよね。まずは Horrocks, Greek を読みましょう。3部構成で、第1部が古代、第2部がビザンツ時代、第3部が現代となっています。とりあえずぜんぶ読めばいいんじゃないですかね。

 Horrocks の Greek を読み終わったら、Bakker (ed.) A Companion to the Ancient Greek Language を読んでみるといいと思います。第1部、第2部、第3部の各論文はとりあえず全部読むとして、社会言語学的な関心のある人は第4部、文学に関心のある人は第5部を読むと強くなれるのではと思います。

 第1部の Rau 論文を読むと、印欧祖語というものがあるらしいということがわかると思います。実際、ギリシャ語の不規則な挙動は印欧祖語を知っているとうまく説明できる例が多いものです。ともあれ、印欧祖語の学習に入るまえに、もう数冊、Adrados, A History of the Greek Language を読んでみませんか。これもまた通史の教科書ですが、祖語時代~古代に比重のある本で、祖語~古典古代:コイネー時代~中世:近代~現代の占める比率は大体 3:2:1 くらいでしょうか。ちょっと細かい議論もしていたりするので、わからないところはとばしながらでもいいのでは。このあたりで疲れてきたら、Palmer, The Greek Language を読んでみてはどうでしょう。ここでも最初の章で印欧祖語の話がでてきますが、さしあたりそういうものかと思っておいて、読み進めてみると、各古典作家の話なども出てきたり、コイネー・ギリシャ語の話がコンパクトにまとめられていて、ここまでの読書の整理になるかと思います。つぎ、Christidis, A History of Ancient Greek がありますが、1500ページくらいあるので通読すると気が狂うと思います。幸い(もちろん?)、論考形式なので、読めそうな論文ははやめに読んでおくといいかなと思います。これから出会うであろう多くのギリシャ語研究者の名前が並んでおります。

 とりあえず、ここまでの読書で大まかな通史はつかめたと思います。方言や祖語の話も触れられて大体のイメージをつくることができたかもしれません。



印欧祖語とギリシャ語方言に触れる

 さて、そろそろ印欧祖語をはじめましょうか。教科書は相場が決まっていて、すなわち Clackson, Indo-European Linguistics と Fortson, Indo European Language and Culture、それから Meier Bruegger, Indogermanische Sprachwissenschaft です (ひとつでもよいですが、全て読むならこの順に読むことをおすすめします)。ただ、これらを読むにあたっては言語学の基礎知識ならびに歴史言語学の方法論について少し予習しておくのがいいかもしれません。このあたりは、さすがに言語学というディシプリンが巨大なこともあり、日本語で読めるものもあります。個人的には加藤・安藤『基礎から学ぶ音声学講義』が好きです。網羅的な定番ものに絞るなら、O'Grady et al. Contemporary Linguistics の第1-3, 7章あたりを読み、あとは Campbell, Historical Linguistics を読むといいかなと思います。

 印欧祖語の知識を身につけると多くのギリシャ語学の文献を面白く読めるようになります。まずは定番の歴史文法の教科書である Rix, Historische Grammatik des Griechischen を読んでいきます。Sihler, New Comparative Grammar of Greek and Latin もこのあたりで読んでいけるでしょう。

 これまでの読書で方言にかんするおびただしい記述を浴びてきたことかと思いますが、ギリシャ語はその多様な方言が魅力の印欧語です。方言にかんしても読むべき本は大体おきまりで、Buck, The Greek Dialects と、ちょっと小さくて読みにくいですが Duhoux, Introduction aux dialectes grecs anciens、 Colvin, A Historical Greek Reader、それから碑文について Bartoněk, Chrestomathy of Ancient Greek Dialect Inscriptions が役立ちます。西ギリシャ方言に興味をもったら Bartoněk, Classification of the West Greek Dialects at the Time about 350 B.C などはどうでしょう。年代は、比べる以上は史料が各地域で揃わないとやってられないので、350 B.C. と比較的くだりますが、それでもドーリス方言の多様性を知ることができるので興味深いです。西北ギリシャ方言が好きになったら Dosuna, Los Dialectos Dorios del Noroeste をどうぞ。アルカディア方言が気に入った人は Dubois, Recherches sur le dialecte arcadien が must-read です。クレタ方言は手ごわいですが、Bile, Le dialecte crétois ancien が重要文献です。方言差異が細かすぎて訳がわからなくなったときに助けてくれるのが Lejeune, Phonétique Historique du Mycénien et du Grec Ancien です。これは手元に置いておきたい本です。



むきむきになる

 ここまでの読書で通史、祖語、方言、大体どの分野でも基礎学力が身についたと思います。あとは研究テーマ、興味関心に応じて読み進めていけばいいかと思います。動詞に興味をもったら Willi, Origins of the Greek Verb を読みこめばいいと思います。アスペクト・テンスについて何もわからなくなったら、とりあえず Comrie, Aspect Tense から始めましょう。Hewson and Bubenik, Tense and Aspect in Indo European Languages もあります。

 印欧祖語の各論について興味をもったら、とりあえず新しいハンドブック、Klein, Joseph and Fritz, Handbook of Comparative and Historical Indo European Linguistics から芋づる式に論文を探すといいのではないでしょうか。総2000ページ以上ある3巻本なので個人で購入するのはつらいかもしれないですが。印欧祖語の音韻法則については Collinge, The Laws of Indo European という本があります。喉音理論については Lindeman, Introduction to the Laryngeal Theory からはじめよ、ですね。語根アオリストに執着的興味のわく人は Hardarson, Studien zum Urindogermanischen Wurzelaorist という本があります。私が語根アオリストに執着的興味のわく人だったので、読んだのですが、難しくてなにもわからなくなりました。畳音に執着的興味のわく人は、JIES Monograph の黄色いシリーズに Niepokuj, The Development of Verbal Reduplication in Indo European というものがあります。私は畳音にも執着的興味のわく人だったので、読んだのですが、難しくてなにもわからなくなりました。

 ギリシャ語に話を戻しましょう。ここまでくると、すでにギリシャ語の各方言についてそれぞれの音韻変化の歴史や母音・子音体系の骨格がみなさんの内にできあがってきたことでしょうが、それに肉づけをしてくれるのが Allen, Vox Graeca です。それぞれの字母やクラスタに対して想定される音価、発音について詳細な議論をしており、タイトルのとおりギリシャ語の響きを知るためのよき参考書となります。それともうひとつ、ここまでずっと知らぬふりをしてフワフワなまま残してきたトピック・ギリシャ語アクセントについては、Probert, Ancient Greek Accentuation があります。最後のほうで祖語をふまえたアクセント史についても言及があり、アクセント研究では必読文献のひとつとなっています。ちなみに、同著者によるもので A New Short Guide to the Accentuation of Ancient Greek というものもあります。正しくアクセントをふるための練習問題つきで、巻末にはしっかり解答も付属しているので、これはひょっとすると「学校文法を身につける」の段階でも使えるかもしれません。個人的には Appendix に各方言アクセントにかんする情報がまとまっていて有益でした。

 


***



 とりあえず上で掲げたのは単行本だけですが、これだけ読めばギリシャ語にかんしてだいぶ議論ができるようになると思います。社会言語学的な関心からギリシャ語にのぞむ場合はアリストファネスなども対象になるかと思いますが、歴史言語学的な興味でテクストを選ぶ場合はホメロス、ヘシオドス、あるいはサッフォ、アルカイオスなどのアルカイック期のテクスト、そして各地方の碑文史料にもとづくことが多くなると思います。言い方を変えれば、これらの史料に出てくる語形、それも古典期アッティカ方言とは異なった語形に出会った場合、想定される祖語からどういった規則がどういった順番で適用され導出されうるのかをひとつひとつ説明してみることは、この分野でのよい練習問題となります。このことを結びに代えて、本稿を終えたいと思います。次の記事では、いつになるかわかりませんが、さらにむきむきになるまでにこれまでのギリシャ語研究史で特に必読とされてきた重要論文、ならびにこの分野での論文の探し方について、紹介してみたいと考えています。




Saturday, May 2, 2020

積読リスト(古典文献学)

優先的積読リスト(古典文献学)
・註釈と、関心のある分野の主要文献に限定して列挙
・2020年5月23日追加、2020年10月24日追加、2022年11月10日追加

Commentaries

Greek

Aeschylus
Bowen, Aeschylus Choephori
Broadhead, The Persae of Aeschylus
Griffith, Prometheus Bound
Page, Aeschylus Agamemnon
Sommerstein, Aeschylus Eumenides

Aristophanes
Dover, Aristophanes Clouds
Dover, Aristophanes Frogs
Dunbar, Aristophanes Birds
Henderson, Aristophanes Lysistrata
MacDowell, Aristophanes Wasps
Sommerstein, Acharnians
Ussher, Aristophanes Ecclesiazusae

Aristotle
Lucas, Aristotle Poetics
Rhodes, A Commentary on the Aristotelian Athenaion Politeia

Demosthenes
McQueen, Demosthenes Olynthiacs
Yunis, Demosthenes On the Crown

Eubulus
Hunter, Eubulus The Fragments

Euripides
Bond, Euripides Heracles
Barrett, Euripides Hippolytus
Dodds, Euripides Bacchae
Lee, Euripides Troades
Mastronarde, Euripides Phoenissae
Page, Euripides Medea
Stevens, Euripides Andromache
Tierney, Euripides Hecuba
  
Herodotus
Farnell and Goff, Tales from Herodotus

Hesiod
West, Hesiod Theogony

Homer
A Commentary on Homers Odyssey 1-8 Heubeck, West and Hainsworth
A Commentary on Homers Odyssey 9-16 Heubeck and Hoekstra
A Commentary on Homers Odyssey 17-24 Heubeck, Russo and Galiano
Mcleod, Homer Iliad Book XXIV
The Iliad Commentary 1-4 Kirk
The Iliad Commentary 5-8 Kirk
The Iliad Commentary 9-12 Hainsworth
The Iliad Commentary 13-6 Janko
The Iliad Commentary 17-20 Edwards
The Iliad Commentary 21-4 Richardson

Homeric Hymns
Richardson, The Homeric Hymn to Demeter

Lysias
Carey, Lysias Selected Speeches

Menander
Gomme and Sandbach, Menander A Commentary

Menander Rhetor
Russell and Wilson, Menander Rhetor

Pindar
Gerber, A Commentary on Pindar Olympian Nine
Gerber, Pindars Olympian One
Verdenius, Commentaries on Pindar vol.1
Verdenius, Commentaries on Pindar vol.2
Willcock, Pindar Victory Odes

Plato
Adam, Plato Crito
Denyer, Plato Alcibiades
Dodds, Plato Gorgias
Emlyn Jones, Plato Euthyphro
Emlyn Jones, Plato Laches
Murray, Plato on Poetry
Stryckers, (ed. Slings), Platos Apology of Socrates
Taylor, A Commentary on Platos Timaeus

Sophocles
Easterling, Sophocles Trachiniae
Griffith, Sophocles Antigone
Kells, Sophocles Electra
Malcolm Davies, Sophocles Trachiniae
Webster, Sophocles Philoctetes

Theocritus
Dover, Theocritus Select Poems

Thucydides
Hornblower, A Commentary on Thucydides vol.1
Hornblower, A Commentary on Thucydides vol.2
Hornblower, A Commentary on Thucydides vol.3

Xenophon
Pomeroy, Xenophon Oeconomicus

Greek Lyrics
Budelmann, Greek Lyric
Campbell, Greek Lyric Poetry
Hutchinson, Greek Lyric Poetry

Latin

Apuleius
Kenney, Apuleius Cupid and Psyche

Augustine
Odonnell, Augustine Confessions Vol. 1
Odonnell, Augustine Confessions Vol. 2
Odonnell, Augustine Confessions Vol. 3

Cicero
Berry, Cicero Pro Sulla Oratio
Denniston, Cicero Orationes Philippicae
Gould, Whiteley, Cicero De amicitia
How and Clarke, cicero selected letters vol.1
How and Clarke, cicero selected letters vol.2
MacDonald, Cicero De Imperio
Nisbet, Cicero in Pisonem Oratio
Powell, Cicero Cato Major De Senectute
Poynton, Cicero Pro Milone
Shackleton Bailey, Cicero Selected Letters
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.1
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.2
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.3
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.4
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.5
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.6
Shackleton Bailey, Ciceros Letter to Atticus v.7
Shackleton Bailey, Epistulae ad Familiares I
Shackleton Bailey, Epistulae ad Familiares II
Shackleton Bailey, Epistulae ad Quintum Fratrem et M Brutum
Wilson, The Thought of Cicero
Zetzel, Cicero De Re Publica

Horace
Mayer, Horace Epistles I
Nisbet and Hubbard, A Commentary on Horace Odes Book I
Nisbet and Hubbard, A Commentary on Horace Odes Book II
Nisbet and Hubbard, A Commentary on Horace Odes Book III
Rudd, Horace Epistles II and Epistle to the Pisones (Ars Poetica)

Petronius
Lawall, Petronius Selections from the Satyricon
Smith, Petronius Cena Trimalchionis

Seneca
Williams, Seneca De Otio; De Brevitate Vitae

Virgil
Coleman, Virgil Eclogues
Thomas, Virgil Georgics vol.1
Thomas, Virgil Georgics vol.2



Anthologies

Beeson, A Primer of Medieval Latin
Hammond, Aeneas to Augustus A Beginning Latin Reader for College Students
Harrington, Mediaval Latin
Harrison, Millenium
Hopkinson, A Hellenistic Anthology
Hopkinson, Greek Poetry of the Imperial Period
Kay, Epigrams from the Anthologia Latina
Maltby, Latin Love Elegy
Russell, An Anthology of Greek Prose
Russell, An Anthology of Latin Prose
Sidwell, Reading Medieval Latin
Winterbottom, Roman Declamation



Classical Scholarship

Dickey, Ancient Greek Scholarship
Ford, The Origins of Criticism
Grafton, Defenders of the Text
Kaster, Guardians of Language
Kennedy, Classical Criticism
Kenney, The Classical Text
Kenyon, Books and Readers in Ancient Greece and Rome
Maas, Textual Criticism
Matthaios, Montanari, and Rengakos, Ancient Scholarship and Grammar
Montanari and Pagani, From Scholars to Scholia
Montanari, Matthaios, and Rengakos, Brills Companion to Ancient Greek Scholarship vol.1
Montanari, Matthaios, and Rengakos, Brills Companion to Ancient Greek Scholarship vol.2
Pfeiffer, History of Classical Scholarship vol.1
Pfeiffer, History of Classical Scholarship vol.2
Renehan, Greek Textual Criticism
Reynolds and Wilson, Scribes and Scholars
Sistakou and Rengakos, Dialect, Diction, and Style in Greek Literary and Inscribed Epigram
Thompson, A Handbook of Greek and Latin Palaeography
Timpanaro, The Genesis of Lachmanns Method
West, Textual Criticism and Editorial Technique
Wilamowitz-Moellendorff, History of Classical Scholarship
Willis, Latin Textual Criticism
Woodard, Greek Writing from Knossos to Homer
Zetzel, Critics, Compilers, and Commentators



Rhetoric

Bloomer, A Companion to Ancient Education
Bonner, Roman Declamation in the Late Republic and Early Empire
Corbett, Classical Rhetoric for the Mondern Student
Dominik and Hall, Blackwell Companion to Roman Rhetoric
Kennedy, A New History of Classical Rhetoric
Kennedy, Classical Criticism
Kennedy, Classical Rhetoric and Its Christian and Secular Tradition from Ancient to Modern times
Kennedy, Greek Rhetoric under Christian Emperors
Kennedy, The Art of Persuation in Greece
Kennedy, The Art of Rhetoric in the Roman World
Lausberg, Elemente der Literarischen Rhetorik ***
Murphy, Rhetoric in the Middle Ages
Russell, Greek Declamation
Steel, The Cambridge Companion to Cicero
Timmerman and Schiappa, Classical Greek Rhetorical Theory and the Disciplining of Discourse
Worthington, Blackwell Companion to Greek Rhetoric










Tuesday, March 10, 2020

積読リスト(数学)

優先的積読リスト
・現在の能力で読めそうなものだけ列挙する
・通読したもののうち再度読み込みたいものは☆印をつける
・コメントは簡潔に
・2021年10月3日追加、2022年3月14日追加、2022年11月10日追加

微分積分学
☆杉浦光夫『解析入門 I 』練習問題やり残し
・小寺平治『明解演習微分積分』
・笠原晧司『微分積分学』杉浦解析を読む際に助かった
・同『対話・微分積分学』

線形代数学
・齋藤正彦『線型代数入門』
・同『線型代数演習』
・佐武一郎『線型代数学』優先的に読み込みたい
・小寺平治『明解演習線形代数』
・永田雅宜『理系のための線型代数の基礎』

集合・位相・圏論
☆松坂和夫『集合・位相入門』練習問題やり残し
☆内田伏一『集合と位相』
・Leinster, T. 『ベーシック圏論』
・森田茂之『集合と位相空間』

解析学(上記「微分積分学」の項に掲載のものを除く)
・杉浦光夫『解析入門 II 』各章とも基礎知識をつけてからのほうが面白そう
☆神保道夫『複素関数入門』
☆チャーチル/ブラウン『複素関数入門』
・アールフォンス『複素解析』ほかのものを読んでから
・中島匠一『複素関数入門』わかりやすそう

代数学(上記「線形代数学」の項に掲載のものを除く)
☆松坂和夫『代数系入門』練習問題やり残し
・雪江明彦『代数学1 群論入門』
・雪江明彦『代数学2 環と体とガロア理論』いい加減そろそろ
・雪江明彦『代数学3 代数学の広がり』後回しでよい
☆足立恒雄『ガロア理論講義』最後の細かい部分まで体得できなかった感
・Atiyah, MacDonald, Introduction to Commutative Algebra
・堀田良之『加群十話』
・新妻弘『イデアル論入門』
・リード『可換環論入門』


幾何学
・松本幸夫『多様体の基礎』なるべくはやく読む
・村上信吾『多様体』
・加藤十吉『位相幾何学』
・森田茂之『微分形式の幾何学』
・Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds

数論
・山本芳彦『数論入門』
・Weil, A. Basic Number Theory
・山崎隆雄『初等整数論』

数学史
・高瀬正仁『dx と dy の解析学』
・同『微分積分学の誕生』
・同『微分積分学の史的展開』


その他
・栗原将人『ガウスの数論世界をゆく』おもしろそう
・高橋陽一郎『力学と微分方程式』物理知らなすぎるのでこういうところから
・深谷賢治『電磁場とベクトル解析』同上、近代数学史に物理学的素養は必須

Sunday, November 3, 2019

初期韻文のギリシャ語を知るための文献案内

 日本でギリシャ語といえばプラトンやアリストテレスをイメージする人間が多いみたいで、私もよく他人に専門を告げると哲学専攻と解釈されることが多いです。できればホメロスやソフォクレスなどの名前がもっとあがってほしいのですが。とはいえ、ギリシャ語を知ってる人でもホメロスやヘシオドス、あるいは抒情詩断片などの初期韻文に対しては (その古風 (?) な語形、語法から) ある種のハードルの高さ、抵抗感をいだいてしまうケースが多いようです。ギリシャ語自体の理解が進めばこのようなバリアーは氷解すると思うので、ぜひ前回の記事で紹介した文献をたよりにアルカイック期の豊穣さを感じてほしいなどといつも思っています。以下では、初期韻文テクストを読んでみる際に携えておくとよい・あると助かる文献をまとめておきます。


ホメロスを読むための文献案内 (☆は特に初心者向け; ★は超重要)

☆Ameis-Hentze-Cauer の註釈つき読本: Homers Ilias; Homers Odyssee.
・Chantraine, P. (1948) Grammaire homérique: Phonétique et morphologie. tom.1. Paris.
・Chantraine, P. (1953) Grammaire homérique: Syntaxe. tom.2. Paris.
☆Cunliffe, J. R. (2012) A Lexicon of the Homeric Dialect (Expanded Editon: originally published in 1924). Norman. ホメロス用の辞書。
・Lorimer, H. L. (1950) Homer and the Monuments. London. 多くの図版入り。
・Morris, I., B. Powell (1997) A New Companion to Homer. Leiden.
・Risch, E. (1973) Wortbildung der homerischen Sprache. Berlin.
Wace, A. J. B., F. H. Stubbings (1962) A Companion to Homer. London. 多くの図版入り。言語や韻律の解説も細かい。コンパニオンとしてはいまだにこちらがおすすめ。

(工事中)

ヘシオドスを読むための文献案内

・Loney, A. C., S. Scully (eds.) (2018) The Oxford handbook of Hesiod. Oxford.
・Montanari, F., A. Rengakos, and X. Tsagalis (2009) Brill's companion to Hesiod. Leiden.

(工事中)

アルカイオス・サッフォそのほか初期抒情詩断片を読むための文献案内 (☆は特に初心者向け; ★は超重要)

・Bowie, A. M. (1981) The Poetic Dialect of Sappho and Alcaeus. Salem.
・Budelmann, F. (2018) Greek Lyric. Cambridge.
☆Campbell, D. A. (1982) Greek Lyric Poetry. New Ed. Bristol.
Hamm, E. M. (1957) Grammatik zu Sappho und Alkaios. Berlin.
・Hutchinson, G. O. (2001) Greek Lyric Poetry. Oxford.
・Hooker, J. T. (1977) The language and text of the Lesbian poets. Innsbruck.
・Lobel, E. (1925) Σαπφοῦς Μέλη. Oxford.
・Lobel, E. (1927) Ἀλκαίου Μέλη. Oxford.
・Page, D. L. (1951) Alcman: The Partheneion. Oxford.
・Page, D. L. (1955) Sappho and Alcaeus. Oxford.
・Pavese, C. O. (1992) Il Grande Partenio di Alcmane. Amsterdam.
・Risch, E. (1954) "Die Sprache Alcmans" in Museum Helveticum 11, 20-37.

(工事中)

ギリシャ語の韻律を知るための文献案内 (☆は特に初心者向け; ★は超重要)

・Dale, A. M. (1968) The Lyric Metre of Greek Drama. 2nd ed. Cambridge.
★West, M. L. (1982) Greek Metre. Oxford.
☆West, M. L. (1987) Introduction to Greek Metre. Oxford.

(工事中)


このあたりのトピックに興味をもった奇特なひとはこちらへ (☆は特に初心者向け; ★は超重要)

・Andersen, Ø., D. T. Haug (eds.) (2012) Relative Chronology in Early Greek Epic Poetry. Cambridge.
・Bachvarova, M. R. (2016) From Hittite to Homer. Oxford.
・Berg, N. (1978) "Parergon metricum: der Ursrung des griechischen Hexameters" in Münchener Studien zur Sprachwissenschaft 37, 11-36.
・Berg, N., D. T. Haug, D. T. (2000) "Dividing Homer (continued)" in Symbolae Osloenses   75, 5-23.
・Drews, R.  (1979) "Argos and Argives in the Iliad" in Classical Philology 74: n.2, 111-135.
・Durante, M. (1971) Sulla Preistoria della Tradizione Poetica Greca. Roma.
★Hainsworth, J. B. (1968) The flexibility of the Homeric formula. Oxford.
・Hajnal, I. (2003) Troia aus sprachwissenschaftlicher Sicht. Innsbruck.
・Haug, D. T., W. Eirik (2001) "The Proto-Hexameter Hypothesis" in Symbolae Osloenses 76, 130-6.
★Hoekstra, A. (1965) Homeric Modifications of Formulaic Prototypes. Amsterdam.

☆Horrocks, G. C.  (1997) "Homer's Dialect" in Morris and Powell.
★Janko, R. (1982) Homer, Hesiod, and the Hymns. Cambridge.
・Jones, B. "Relative chronology and an ‘Aeolic Phase’ of epic" in Ø. Andersen and D. T. Haug (eds.) (2012), 44-64.
・Kirk, G. S. (ed.) (1964) The Language and Background of Homer. Cambridge.
・Kirk, G. S. (1976) Homer and the Oral Tradition. Cambridge.
・Latacz, J. (ed.) (1991) Zweihundert Jahre Homer-Forschung. Stuttgart.
☆Latacz, J. (2001) Troia und Homer. München.
・Morpurgo Davies (1964) "Doric features in the language of Hesiod" in Glotta 42, 138-65.
★Nagy, G. (1974) Comparative Studies in Greek and Indic Meter. Cambridge, MA
・Nagy, G. (1990) Pindar's Homer. Baltimore.
・Nagy, G. (2011) "The Aeolic component of Homeric Diction" in S.W. Jamison, H.C. Melchart, B. Vine (eds.) Proceedings of the 22nd Annual UCLA Indo-European Conference, 133-79.
・Peabody, B. (1975) The Winged Word. Albany.
・Tichy, E. (1981) "Hom. ἀνδροτῆτα und die Vorgeschite des dactylischen Hexameters" in Glotta 54, 28-56.
★Watkins (1994) "Indo-European metrics and archaic Irish verse" in Celtica 6, 194-249.
★Wathelet, P. (1970) Les traits éoliens dans la langue de l'épopée grecque. Rome.
・West, M. L. (1973) "Greek Poetry 2000-700 B.C." in Classical Quarterly 23, 179-92.
・West, M. L. (1988) "The Rise of the Greek Epic" in  Journal of Hellenic Studies 108, 151-72.
・West, M. L. (1989) "An unrecognized injunctive usage in Greek" in Glotta 67, 135-8.
・West (1992) "The Descent of the Greek Epic: A Reply" in JHS 112, 173-5.

*West (1973); (1988); (1989) は revised されたのち論文集 Hellenica に所収されています。参照する場合はこちらで読んだほうがよいです。

(そのほか大多数につき工事中)




Sunday, October 13, 2019

ギリシャ語とラテン語を知るための文献案内



 初等ギリシャ語・ラテン語の学校文法にかんしては日本語で読める教科書が大量に存在します。まずは水谷『古典ギリシア語初歩』や有田『初級ラテン語入門』などを読み込むとよいでしょう。大学シラバスにのっているような信用のあるものなら正直どれでもよいです。自分の体験と他人に教えた経験にもとづいていうと、基本的な語形変化や語法にかんしては他人による指導のもとでゼロから学習するのでは遅々として進まず、らちがあきません。独習による集中的な詰め込みによって最初の山を一気に越えるほうが効果的だと思います。たとえば1か月と期間を決めて何周も読む、裏紙に何度も書きくだすなど。

 とはいえ教科書の記載事項を100%マスターする必要があるかといえば、そうでもありません。なんでもそうですけど完璧主義が必要になる局面と、完璧主義が邪魔になる局面ってありますよね。このあたりは完璧主義にならないほうがよいです。7、8割の理解が得られたならば、アンソロジーなどに進んで「読みながら覚える、復習する」かたちに切り替えたほうがストレスがないような気がします。要するに、大体のかんどころを嗅ぎ分けられるようになれば、あとは辞書や文法書をひきながらテクストを読み、語形変化や基本的な文法事項の知識定着を図れるので、初歩にこだわり過ぎる必要はないということです。あと、例文を音読する習慣をつけてください。

 以下では古典研究界隈で定番な文献を中心に列挙していきたいと思います。西洋古典研究の中心は当然ながらヨーロッパとアメリカなので、残念ながら (?) 英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、それからスペイン語などのリテラシーがあることが前提ですが、文学作品ではなく専門書なので (出現可能性の高い語彙数が限定されてくるので) 慣れれば何語であってもなんとかなります。 

・Liddell, H.G., R. Scott, and H. S. Jones, (1940) A Greek-English Lexicon. 9th ed. Oxford.
・Glare, P. G. W. (ed.) Oxford Latin Dictionary. 2nd ed. Oxford.
・Smyth, H. (1956) Greek Grammar (rev. G.M. Messing). Cambridge, MA.
・Denniston, J. D. (1959) The Greek Particles. 2nd ed. Oxford.
・Gildersleeve, B. L., Lodge, G. (2009) Gildersleeve's Latin Grammar. rep. New York.
・Woodcock, E. C. (1991) A New Latin Syntax. Bristol.

(工事中)

LSJ は定番の辞典ですが批判的に読む必要があります。Smyth は文法事典であり、索引から調べたい項目を探して読むという用い方が中心となります。Denniston はギリシャ語の小辞を調べる際に用いるものです。例文の量は圧巻ですが参照して小辞にかんして「わかった」となったことはないです。ラテン語を読むときは Gildersleeve が頼りになります。



ギリシャ語・ラテン語に詳しくなりたい場合に読むとよい文献



(印欧祖語)
・Beekes, R. S. P. (2011) Comparative Indo-European Linguistics. 2nd ed. Amsterdam.
・Clackson, J. (2007) Indo-European linguistics. Cambridge, U.K.
・Fortson, B. W. IV. (2010) Indo-European language and culture. 2nd ed. Chichester.
・Meier-Brügger, M. (2010) Indogermanische Sprachwissenschaft. 9th ed. Berlin.
・Sihler, A. L. (1995) New Comparative Grammar of Greek and Latin. Oxford.

ホメロスやヘシオドス、アルカイオスやサッフォなどのギリシャ語に興味がある場合、この言語の背後にひそむ印欧祖語のメカニズムを知っておくと、ひとつひとつの語形にかんする味わいが楽しめて、理解がすすみます。Clackson, Fortson, Meier-Brügger は大体どこの文献リストでも推奨されるほどド定番。特に Meier-Brügger は先行研究のレファレンスが圧巻で、特に有用。英語の翻訳もありますがこちらのほうは著しく評判が悪い (ので私は読んだことがないです)。Beekes は教科書の割には自説の展開が多い印象ですが、そのぶん深読みできる感じがして個人的には一番好きです。Sihler は特に動詞形態論、アスペクトの解説があってすごかったです。



(ギリシャ語)
・Adrados, F. R. (2005) A History of the Greek Language (trans. C. F. Rojas). Leiden.
・Bakker, E. J. (ed.) (2014) A Companion to the Greek Language. Oxford.
・Chantraine, P. (1961) Morphologie historique du grec. Paris.
・Horrocks, G. C. (1997) Greek. London.
・Lejeune, M. (1972) Phonétique historique du mycénien et du grec ancien. Paris.
・Palmer, L. R. (1980) The Greek Language. London.
・Rix, H. (1976) Historische Grammatik des Griechischen. Darmstadt.

Horrocks か Palmer から読むのがよいかもしれませんが、もしかしたら上記でとりあげた印欧祖語の教科書から始めたほうが効率がよいかもしれません。Horrocks については古代ギリシャ語だけを知りたいなら前半部分だけ読めば十分です。Adrados は参照すべき文献が多く言及されていてよいですが初心者が本書を読むと混乱すると思います。筆者がいちばん最初に読んだギリシャ語学関係の文献はたしか Chantraine で、印欧語の ablaut もろくに分かっていない段階で読んだので、理解に試行錯誤した記憶があります。Lejeune は、個人的には索引から単語をひいて読むことが多いです。Bakker のコンパニオン所収の各章を選んで読むことから始めても良いかもしれません。



(ギリシャ語の方言)
・Buck, C. D. (1955) The Greek Dialects. Chicago.
・Colvin, S. (2007) Historical Greek Reader. Oxford.
・Duhoux, Y. (1983) Introduction aux dialectes grecs anciens. Louvain-la-Neuve.

Buck は古いですがギリシャ語方言にかんする本質情報はじゅうぶん得られます。Colvin はリーダーが充実していて、史料読解の練習のために西洋史学をやってる学生さんなどに重宝されている気がします。



(ミュケナイ・ギリシャ語)
・Bartoněk, A. (2003) Handbuch des mykenischen Griechisch. Heidelberg.



(ラテン語)
・Baldi, P. (1999) The Foundation of Latin. Berlin.
・Clackson, J. (ed.) (2011) A Companion to the Latin Language. Malden, MA.
・Clackson J. and G. C. Horrocks, (2007) The Blackwell History of the Latin Language. Malden, MA.
・Palmer, L. R. (1954) The Latin Language. London.
・Weiss, M. (2009) Outline of the historical and comparative grammar of Latin. Ann Arbor.

おすすめは Weiss です。印欧祖語の勉強も一緒にできます。集中して読むと相当な時間がかかりますが、古いラテン語からロマンス語の入口まで飛躍的な学習効果が期待できます。



(俗ラテン語)
・Adams, J. N. (2007) The Regional Classification of Latin. Cambridge.
・Väänänen, V. (2012) Introduction au latin vulgaire. 4th ed. Paris.

Väänänen のものは初版こそ古いですが今でも俗ラテン語入門といえばコレ一択といった感じの文献です。



(ロマンス諸語)
ロマンス語学一般
・Alkire and Rosen (2010) Romance Languages. Cambridge.

フランス語
Pope, M.K. (1934) From Latin to Modern French with especial Consideration of Anglo-Norman. Manchester.

イタリア語
・Maiden, M. (1995) A Linguistic History of Italian. New York.

ポルトガル語
Williams, E. B. (1962) From Latin to Portuguese. Philadelphia.

ロマンス語の各語学にかんする文献については、自分自身でしっかり読んだものがあまり多くなく、自信と責任をもって推奨できる文献が少ないため、今後の課題です。もともと大学に入ったばかりのときは第二外国語をきっかけにロマンス諸語の言語どうしの類似に惹かれて、他の科目をさしおいて印欧語界隈を徘徊し始め(予期せずしてギリシア・ラテンの研究室に漂着した)たのですが。代わりといってはアレですが(ラテン語)の項目で紹介した Weiss (2009) pp. 503-4 に推奨文献リストがあります。


まとめると、言語としてのギリシャ語とラテン語に強くなりたいと思ったら、Clackson (2007); Fortson (2010); Weiss (2009); Horrocks (1997) などから基礎がためをするのが効率的なのかなと思います。









春からギリシャ語をはじめる人へ

 春ですね。新しいことをはじめるにはよい季節ですし、ギリシャ語をはじめるのはよいアイデアだと思います。ギリシャ語ができれば、文学、歴史学、哲学、新約聖書文献学など、多くの分野で勉強・研究を進めることができるようになります。私は学部後期課程・大学院修士課程とギリシャ語史を中心に調べ...